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ぷれす通信

ぷれすスタッフによる不定期連載コラム

なんでも書いていいって言ったじゃないか! 第18回

<h3>ぷれすスタッフによる不定期連載コラム</h3>

校正診断という試み


三輪しののい



 かれこれ20年近く校正の仕事をしているのだが、進行管理の手伝いもしているので、校正者からの納品ゲラをたくさん目にする機会に恵まれている。
 担当している人数はそれほど多くないが、以前はゲラの受け渡しで皆さんとお目にかかり、作業方針などを含めてあれこれとお話しすることもあった。
 そこで気付いたのは、ゲラの指摘の様子から、その人のキャラクターがわかるということである。

 例えば、指摘箇所から引き出す「線」を見てみよう。

 定規を使う人は謙虚である。字も丁寧に書くし、ゲラを汚すこともない。納期を確実に守り、前倒しでアップすることも多い。身の丈に合わないと判断したオファーは辞退する(安請け合いしない)。こぎれいな服装をしており、挨拶も穏やか。時おり弱気な発言が見られるものの、クオリティーに影響はない。ゲラは角をしっかりそろえて納品する。

 威勢よく引き出す人は自信に満ちている。指摘の字も濃く、総じて大きい。ゲラが多少ヨレてしまおうが「しっかり見た証しですから」と言わんばかりに気にせず納品する。自分を持っているので、線と同じく安易にブレない。頑固でもある。しかし、根は親切で家庭的だったりする。

 線の見映えを気にしない人は楽天的である。「ま、指摘したいとこがわかりゃいいんだからさ」といった体(てい)である。ミスをしても立ち直りは早い。無理な日程の案件でも「やりますよ」と快諾してくれ、リスケよろしくの出版業界を支える陰の立役者と言っていい。固定的なサラリーマン生活には向かないだろうな、といった雰囲気の方も多い。

 こんなふうに、引き出し線ひとつとっても違いが見えてくる。
「全然当たっていない」と反論されるかもしれないが、統計をとったわけではなく、個人的見解のひとつですので……あしからず。
 しかし、ちゃんと研究すれば筆跡診断ならぬ「校正診断」なんていう看板を掲げ、「今後はこの方面の校正にトライしてみたら?」などと提案できそうでもある。

 さて、「偉そうに分析しているお前の引き出し線はどうなんだ」と問われれば、数年前から定規を手にするようになった。
 駆け出しの頃はいっさい使わず、「線一本キリッと書けずして、どうして一本立ちできよう」という気概がそうさせていた。運よく有名どころの職場で働くチャンスに恵まれたがゆえ「根拠のない自信」もあった。
 しかし、ある時これまでの自分のゲラを見直してみたところ、なんと言うか居心地の悪さみたいなものを感じてしまった。理想としていた佇まいが出ていないのである。それで定規を使ってみることにしたわけだ。
 もっとも、完全に定規一本槍になったわけではなく、フリーハンドに戻したり文字の大きさや濃さを変えたりして、案件ごとに楽しむようにしている。
 種明かしをすると「今回は○○さんのゲラのようにしてみよう」という目論見があるわけだ。その校正者の実力にあやかりたいという思いもある。

 やはりゲラによるキャラクターの見分けは「あり」な気がしてならない。
 他の人のゲラを真似てみようと思ったのは、先輩後輩問わず様々な納品ゲラを目にすることで、感心したり学ばせてもらったりして、「謙虚」な気持ちが増したからだと感じる。憧れを抱くことに素直になったのかもしれない。だから、昔の負けん気の強さが前面に出たゲラを見直したときに違和感を覚えたのだ。

 こうしてたくさんのゲラのタイプを取り入れていけば、時に謙虚に慎ましく、時に自信に満ちあふれ、時に楽天的にというように、人間性が豊かになりそうな気もする。
 最終的には、案件によって雰囲気の異なるゲラに仕上げることができる「カメレオン校正者」なんてことを言われてみたい気もする。
 そのためには何をもってしても日々の鍛錬、これが大事だということで、せっせとゲラと向き合うしかない。
 目薬をさし、腕をまくり、褌を締め直す2022年の春である。



〈出版の窓〉
 ゲラの間違いをどのように指摘するのかというと、校正記号(印刷校正記号)を使います。1965年にJISとして制定され、コンピューターの普及により2007年に改訂されました。
 細かい部分については版元でアレンジを施したりしているので、使い方に若干の違いが見られることがあります。指摘の入ったゲラを目にして、○○出版で働いたことがある校正者(もしくは編集者)かな? などと想像できたり、なかなか楽しいものです。
 せっかくなので、本編で触れた引き出し線に関する豆知識をひとつ。欧米諸国には線を引き出さない校正の方法もあります。ブックシステムといい、訂正箇所に斜線を入れ、その行の左右に正しい文字を書き並べるやり方です。引き出し線を使う校正はパスラインシステムと呼び、日本で採用しているのは基本的にこの方法のみです。



《著者プロフィール》
三輪しののい
1976年生まれ。神奈川県出身。

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