ぷれす通信

communication

読んだら書きたくなりました vol.136

『ムンバイなう。 インドで僕はつぶやいた』

U-zhaan スペースシャワーブックス

 

インドの打楽器タブラの日本人奏者である著者が、タブラ修業のために赴いたインド・ムンバイでの生活記録です。私自身はインドを訪れたことはなく、同国に対してはカレー、仏教、ガンジス川、遠藤周作の小説『深い河』の舞台、シュバシシュ・ブティヤニ監督の映画『ガンジスに還る』の舞台、などがイメージとして漠然と頭に浮かんでくるくらいで、現実的な親近感は乏しいです。自分が実際に足を踏み入れ、その身でインドを経験していない以上、本書を読んだことによってもたらされる親近感は知れていると侮っていたのですが、ところがどっこい。Twitterでの著者のユーモアあるつぶやきをもとに構成されていることもあってか、描かれるインドに生きる人々にまるでリアルタイムで笑い、共鳴するような不思議な感覚が。書籍という間接的な手段ながらも、インドに(そして著者に)親近感を抜群に持たせる内容にタブラ、いや膝を打ちました。「カルカッタの空気は去年よりもよくなってるね、とタクシードライバに言ったら『そうだろう。リクシャーの燃料も環境対応のものに変わったんだ。カルカッタもエコロジーの時代だからな』と彼は嬉しそうに答えながら、窓からゴミを投げ捨てた。」という面白おかしいエピソードなど、人間が機械ではないことを自ら示すように、矛盾を抱え、混沌を地で行くインドの人々、そして著者。読後、私もその渾然一体な様相の影響を受けたのか、インドに行きたい気持ちと行きたくない気持ちが同時に湧きました。『ムンバイなう。2』があるそうなのでそちらも読み、奇妙で味わい深い国をまた著者と疑似体験しようと思います。そしていつか疑似体験に甘んじず実体験を。(くろ)

 

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『辛酸なめ子の現代社会学』

辛酸なめ子 幻冬舎

 

漫画とエッセイによって社会現象を物体として観察し、デッサンしているような印象を受けます。それは表紙の客観性に富むリンゴの絵の影響があるかもしれないのですが、まるで日常に生きる人々の営みを等価に描く某ドキュメンタリー番組のナレーションのように落ち着いた調子の文体、感情移入しづらく冷静さを維持せざるを得ない画風に際していると、自然とそんな気にさせられます。脈拍の山あり谷ありのドラマだけでは物足りず社会に非日常的なドラマを期待する「純情プレイ」、変化しないことを是として自ら変化への不安を生む「地震ノイローゼ」、個人情報を守ろうとすることでかえって露呈する「個人情報過敏症」など、一定の距離を保ちながら、ユーモアをもって人間の性(さが)の光と闇を綴るエピソードに魅せられました。(もん)

 

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