ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.133

『明け方の若者たち』

カツセマサヒコ 幻冬舎

内定をいち早く得たメンバーが集う「勝ち組飲み」に参加した「僕」は、そこで彼女と知り合い、会を抜けて近くの公園で語り合い――。社会人という新たなスタートを切って、七転八倒しながら進んでいく恋愛と青春を描いた小説です。20代の読書は等身大の言葉遣いや、同じ目線で今と未来を見つめられる楽しみがあります。その時期を過ぎてしまった読者は、かつて自分がそんな風な感情を抱いたりしたことを思い出して、ほろ苦い気分になるかもしれません。主人公の「僕」はメソメソとした文系男子ですが、なかなかどうして真っ直ぐで憎めないキャラクターで、年上の彼女が好きで好きで仕方ない。彼女は派手さはないものの、無邪気さと身勝手さのバランスがよく(それでもって何かありそう)、これまたキュートに描かれています。二人の恋の行方のほかに、大手企業に就職しつつも次第に自分が勝ち組でもなんでもない「選ばれなかった人生」だと悟る若者らしい心の動きや、同期入社で知り合った親友とのドンチャン騒ぎ、危機を救ってくれる友情物語などの熱い世界が描かれています。読後、少し遠い目をしてしまいました。明大前や下北沢、高円寺といった街のざわめきも耳に届きますよ。(かつ)

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『たまごの魔法屋トワ』

宮下恵菜・作/星谷ゆき・絵 文響社

児童書の素敵なところって、愛や勇気、優しさ、相互理解といった、私たち人間が生きていくうえで本当に大切なことをストレートに扱っているところだと思います。本作もそうした本質的に大切なことを伝えてくれる作品です。舞台は、魔法使いの世界とニンゲン界が森を隔ててとなりあう世界。ニンゲンは魔法使いの存在を知らず、魔法界ではニンゲンと関わることは禁じられています。昔は助け合って暮らしていた魔法使いとニンゲンですが、ニンゲンが魔法使いを恐れたことをきっかけに魔女狩りが行われたという暗い歴史があるのです。物語は、10歳になった主人公のトワが、見習いから一人前の魔法使いになるところから始まります。トワのたった一人の家族である姉は現在行方不明、姉はニンゲンと心を通わせた罰として、『古の魔法』によってどこかに封じられてしまっているのです。姉を探すトワは、しゃべるウサギのぬいぐるみと出会ったことをきっかけに、ニンゲン界でたまごの魔法屋として困っている人を助けるお仕事を始めます。トワの置かれた状況や背景に流れる歴史は重いのですが、なにせトワが素直で一生懸命! まだ姉は見つかっていないし、たまごの魔法屋も始まったばかり。トワがどんな正しい魔法使いになるのか次回作が楽しみです。(くろ)

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