ぷれす通信

communication

読んだら書きたくなりました vol.12

『陽子の一日』

南木佳士 文春文庫

医者である陽子の一日が、時系列で描かれています。そこでは、人間と、人間がかかってしまう病気というもの、また死というものが冷静に、ときに繊細に描写され、回想も盛り込みながら話は進んでいきます。言葉をていねいにつないでいく文章が私の肌に合っているようで、この著者の本はよく読みます。医者は人間をみる職業なんだな、自分の人生も立ち返って考えざるを得ないんだな、と改めて思いました。医者になるまでの道のり、医者になったあとの患者さんや病気と向き合う日々……きれいごとではすまないそれらのことに触れ、読んでいて切なく、優しい気持ちになりました。(くろ)

『ジョン・バーリコーン』

ジャック・ロンドン 辻井栄滋 訳 現代教養文庫(絶版)

ジョン・バーリコーンとは、アルコール飲料を擬人化した別称のこと。ジャック・ロンドンは甘いキャンディが大好きで、酒なんか飲みたくなかったそうです。にもかかわらず飲むことになったのは、冒険心に溢れた男たちの世界(牡蠣泥棒や遠洋への船乗りなど)で認められるために、酒場での奢り合いが不可欠であったから。アルコール依存についての瞑想録であると同時に、泥棒仲間や船乗りとしての数々のエピソードに興奮する冒険小説であり、また作家として名をなすにいたる自伝的教養小説でもあります。ジョン・バーリコーンと闘い、危ういながらも生きながらえ、心底憎みつつも決別できない心理とは。『野性の呼び声』『白い牙』などの動物小説ももちろん良いですが、ジャック・ロンドンはそれだけではないのです。復刊してほしい!(かつ)