ぷれす通信

communication

2015年4月号

脱字のすすり泣き

キャリアを積むにつれて知識見識が広がり、「てにをは」(ないしコロケーション)を指摘し、きりっとした文章に仕立て上げようという意欲が強くなってきます。

それはもちろん素晴らしいことですが(やりすぎは厳禁)、微に入り細を穿つ指摘をしながら単純な見落としをしてしまうと、即座に「残念な校正者」扱いをされてしまいます。なかでも恥ずかしい見落としは脱字です。これは校正の基本中の基本ですし、フィードバックされたら言い逃れできません。

経験的にみて、脱字の拾いモレが多いのは全体の7~8割を作業し終えたあたりから。おそらく、オペレーターも編集者も校正者もゴールがみえて少し気が緩むのでしょう。結果、本来あるべき文字が字間の闇に埋もれてしまい、人知れず涙を流すことに。校正者は耳を澄まして、拾われない文字の気配を聞きとる技術も必要です。

作業を終えても、なんだか引っかかるなと感じるとき。それは、見過ごされた脱字のすすり泣きのせいかもしれません。

「ホントかよ」といまツッコミを入れたあなた。ためしにゲラをめくってみてください。

「!」なんてことになっていませんか。

救ってあげた文字はいつか恩返しをしてくれるはずです。どんな恩かはそれぞれ校正者が知っているのでは? (校閲部長・山本雅範)

チームと個人の能力

先日、母の介護について、父、ケアマネジャー、デイサービスの担当者、ショートステイを依頼する施設の担当者と打ち合わせをしました。今回、急激な症状悪化があり、父は少々パニック気味。そんなわけで家族代表として、私も打ち合わせに参加したのでした。

感心したのはデイサービスの方たちです。症状悪化の原因が、薬の変更にあるのではと推測。薬剤師に連絡し、医師に相談するよう手配してくれました。その結果、薬をやめることになり、症状は改善してきたようです。

週3回、定期的にみてくれていることと、多くの人に接している経験があるからこそ、できたことだと思います。ありがたいことです。緊急事態でしたが、ケアマネジャーも、なかなかみつからないショートステイの受け入れ先を前日遅くまで探してくれ、打ち合わせには受け入れ施設の担当者も一緒に来てくれました。情報の豊富さと粘りがモノを言ったという印象。

日々母をみている父、客観的にみている私、現場の経験豊富な介護スタッフ、それに情報豊富で熱意のあるケアマネジャー、このチームで緊急事態を乗り切りました。

書籍、雑誌、WEBサイトなどの制作も同じですよね。著者、編集者、ライター、校正者、デザイナー、DTP、イラストレーター……。それぞれが自分の持っているリソースを発揮し、しかもチーム全体で一つの制作物を完成させていく。

ぷれす編集部は、このようなチームの要としての役割も果たしていきたいと思っています。(編集部長・渡辺 隆)

この1冊!『悪文 第三版』

この1冊!『悪文 第三版』

『悪文 第三版』

岩淵悦太郎 著

日本評論社/228ページ

ISBN-10: 4535574758

ISBN-13: 978-4535574755

価格:1,500円(税別)


『悪文 第三版』は、1960年8月に発行された岩淵悦太郎編著の『悪文』を改稿し、1979年11月に発行されたものです。 

本書には初版時の前書きが収められていますが、そこに岩淵氏は、「今やマス・コミ時代で、文章が大量に生産されている。文章を書く層もずっと広くなって来て・・・文章を書きなれていない人々にも、文章を書かなければならない機会がふえ・・・世間に現われる文章が必ずしもきちんとしたものとは限らないのであろう」と書いています。「マス・コミ時代」を「インターネット時代」に置き換えても同様のことがいえそうで、本書がロングセラーになっている理由もその辺りにあるのかもしれません。                                

本書では、岩淵氏をはじめ、当時の国立国語研究所の所員が、「悪文のいろいろ」「構想と段落」「文の切りつなぎ」「文の途中での切り方」「文の筋を通す」「修飾の仕方」「言葉を選ぶ」「敬語の使い方」というテーマを分担して執筆しています。

岩淵氏は、「相手にわからないような、あるいは、相手にわかりにくいような文章は、また悪文と言ってよいかも知れない」「どのような点に注意すれば、悪文といわれる範囲から抜け出せるかを、指摘しようと考えた」と記しています。 

素読み校正をしていると、助詞や指示代名詞、修飾語の使い方、主語と述語の対応など、ここは何かおかしい、と首を傾げる文章に遭遇します。本書はそうした“モヤモヤ感”の正体を明らかにしてくれます。

初版発行から半世紀以上経っているので、今日では使われない用語や用法なども散見され、例文の古さも否めません(豊富な例文からは、昭和30年代の世相がうかがえます)が、一種の文章読本として、一読の価値がある本だと思います。(お)