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ぷれす 校正&校閲プロダクション

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ぷれす通信

2013年11月号

デッドゾーン番外編 編集者Wが勝手に語る校正の仕事1

原稿を書くのは著者やライターですが、彼らはテーマに沿って言いたいことを書きます。中身が最大の関心事です。文章の正確さ、わかりやすさ、読みやすさは二の次という人も多いものです。引用している数字や資料が違っていることもあります。頭に浮かんだことをバンバン書くときなんぞ、用字用語を気にしていなかったりします。
 編集者も原稿整理を一所懸命にやるわけですが、ここでも中身が中心。より伝わるように文章に手を入れますが、用字用語の統一も頭に余裕がある範囲で‥‥。引用元の確認もしますけれど、最近は緻密さに欠けるように思われます。本来ですと、オリジナル資料までさかのぼって、必要ならば許可を取るべきところ、出版を急ぐ風潮と、複数の仕事を抱える中で手間を省くために、けっこう調べる作業を省略していたりします。
 というわけで、著者、ライター、編集者の仕事には漏れがあり、心のどこかで、「次の人がフォローしてくれるだろう」「組んでから校正で直そう」という気持ちがあると思います。
 活版、手動写植機で組み版を行っていた時代は、そういう気持ちはかなり少なかったと思います。完全な原稿を仕上げて、それを組み版に回していました。組んでから直すのはたいへんで、お金もかかりました。そういう時代の校正は、まずは「原稿どおりに文字が組まれているかどうかを調べる」ことが基本で、この作業で誤植を発見。そのうえで、原稿での誤字脱字、用字用語の統一、校閲なども行うと、校正の先生から聞きました。
 しかし今は電算写植を経てDTPの時代。「組んでから直す」ことが楽になりました。そのため、「校正者にも本作りにより深く関わってもらうことができるようになった」、そんな気持ちが編集者にはあるように思います。安心感が増すということで。
 校正者を仲間として頼りにする風潮、つまり「原稿作成、編集作業に校正者を引っ張り込もう、参加してもらおう」という気持ちは、だんだん高くなってきているように思います。そんなわけで、校正者の皆様、フォローをどうぞよろしくお願いいたします。って、甘いか!?

この一冊!『奇跡の教室 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』

<h3>2013年11月号</h3>
『奇跡の教室 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』

伊藤氏貴 著
小学館文庫/220ページ
ISBN-13: 978-4093881630
価格 495円(税別)

本書は、今年9月11日に101歳で亡くなった、灘中学・高校の伝説の国語教師・橋本武氏(エチ先生)の授業に迫る一冊です。
 東京高等師範学校を卒業して灘校の教壇に立ったのが昭和9年。戦前、戦中、そして戦後の「墨塗り」教科書の時代を経て、昭和25年、子どもたちに「なんとか本当の学力を」と始めたのが「教科書を一切使わず、一冊の薄い文庫本を3年間かけて読む」という前代未聞の授業でした。そこで使われたのが、中勘助の自伝的小説『銀の匙』です。
 授業で大切にしたのが追体験。つまり、生徒自らが興味を起こすようにするために「主人公になりきって読んでいく」、物語の主人公と同じ場面を授業に取り込むというものです。例えば、主人公が「きんか糖、きんぎょく糖、てんもん糖、みじん棒」等々駄菓子を口にする場面が出てくれば、駄菓子の専門店に問い合わせて現物を入手して生徒に実際になめさせる。また、文中に「丑紅(うしべに)」という聞き慣れない言葉が出てくれば、その意味を調べるにとどまらず「丑」を手がかりに十干十二支に話を広げ、甲子園球場の名の意味や還暦についても解説。主人公が凧を揚げれば、美術の時間を使って骨組みから凧を手作りし、国語の時間にクラス中で凧を揚げ、空に高く上がるのを見ながら主人公の得意げな気持ちに近づくという具合です。さらに、どうしても調べがつかないことは、著者の中勘助に手紙を出して問い合わせるという徹底ぶりでした。
 だからこそ「2週間で1ページしか進まない」こともよくある事だったようですが、本書に登場する教え子の濱田純一氏(東京大学第29代総長)が「大学で原書講読をやる時のやり方」と似ていたと表現し、「うまく鍛えていただいたなあ」と述懐しているのが印象的です。
一読すれば「すぐ役立つことは、すぐに役立たなくなります」というエチ先生の確信がひしひしと伝わってきます。日々駆け足を迫られる我々ですが、ふと立ち止まり、仕事のしかたを見直してみたくなる、そんな一冊になるかもしれません。(S)

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