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ぷれす通信

2013年9月号

デッドゾーン 「普通」という罠

長く校正の仕事をしていると知識や経験則が蓄積され、自分なりの判断基準ができてくるものです。しかし、実際の作業でそれを持ち出していいかどうかは一考を要します。
 こんな例がありました。そのゲラは、魚の名前がひらがなとカタカナで混在していたのですが、すべてカタカナ表記に統一するようにエンピツが入っていました。統一に関する編集者からの指示はなかったので、指摘した校正者に尋ねたところ「魚の名前は普通カタカナで表記するから」との答えです。しかし、取り決めがない以上、混在を指摘するにとどめ、編集者に表記統一を促すのが望ましい対応ではなかったでしょうか。
 人によって物事の解釈はさまざま。「普通は○○だから」という判断基準は、時に独り善がりなものとなる危険をはらんでいます。先の例で言うなら、「動植物の和名は、外来種以外はすべてひらがなにする」というルールを定めている媒体もあります。どのように表記するかを決めるのは、校正者ではなく、著者や出版社(編集者)なのです。
 和名の表記について調べたところ、確かにYahoo!百科事典には「和名は、通常、片仮名で記し、とくにこれを規制する規約がないので多くは慣用による」とあります。しかし、どのような本であるか、読者はどんな層なのかによっても、編集方針、ひいては校正基準は変わってくるものです。
 疑問を出す際には、「独り善がりな判断では? きちんとした根拠があるだろうか?」と自分に問いかけましょう。「普通」の罠にはまってはいないか、判断する権限は誰にあるのか、よく考えることが大切です。(M)

この一冊!『ことわざ練習帳』

<h3>2013年9月号</h3>
『ことわざ練習帳』

永野恒雄 著
平凡社(2013/2/18)
新書/264ページ
ISBN 978-4582856729
価格 780円(本体)

本書は、「練習帳」の名の通り、全48問の練習問題で構成されており、楽しみながらことわざを学べます。日本のことわざを中心に展開されていますが、諸外国のことわざも紹介されています(例えば福沢諭吉が紹介した、ベンジャミン・フランクリンの格言入りカレンダー『貧しいリチャードの暦』など)。
 ことわざは「口承の形で伝えられ、口頭の会話の中で用いられてきた口承文化」で、文字から学ぶようなものではなかったそうです。教訓や風刺を表すものゆえ、書物から学び取る「高尚」なイメージがありますが「口承」が本来の姿です。そのため漢字で記されたがゆえに発音が変わってしまったというケースもみられます。本書では「頤(おとがい)で蠅を追う」ということわざが紹介されていますが、「蠅」の読み方は「ハイ」。昭和30年代までは普通の読み方だったそうです。現在は「ハエ」と変化し、多くのことわざ辞典でも「ハエ」と読ませているとか。漢字に表記されたことで、音の味わいが変わってしまった一例です。
 とはいえ口承の形態を引き継ぐところもあります。ザイール共和国東部に住むレガ族は文字を持たない民族です。集会所にやってくる子どもたちに長老が紐に何かをぶら下げて訊ねます。今日は「犬の歯」をぶら下げています。さて長老は何を説いているのでしょう? 「犬の歯は輝いているけれども、その歯は糞をも食べる」=表面はきれいに見えても汚いものを齧ることもある。
つまり「人は見かけではわからない」ということわざです。長老が子どもたちに説き、子どもたちもやがて大人になり、その子どもに伝える。口伝えの持つあたたかみが感じられます。
 受験勉強で暗記したことわざを、口承文化という面から学び直してみてはいかがでしょうか? この「練習帳」は合格不合格のためではない、ものごとを見る目を豊かにする「練習帳」です。(Y)

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