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ぷれす通信

2013年8月号

デッドゾーン 思い込みの罠

毎日蒸し蒸しと暑い日が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。あまりの暑さに耐えきれず、キンキンに冷えた飲み物を飲んだりアイスクリームを食べたり(「Coolish」のいちごミルクがお気に入りです)、連日胃に負担をかけている今日この頃でございます……。
 さて、毎年夏になると思い出す出来事があります。
 ある雑誌の校正チームにいたときのことです。隣に座っていた校正者に統一事項を確認しようとして声をかけました。作業中の手元を目にしてびっくり。ゲラに「『快水浴場百選』」とあったのですが、「快」を「海」に、「朱で」修正していたのです。
 その現場では、ファクトチェックを編集者がやることになっていたので、校正者はネット等で調べることはしません。おそらく、変換ミスだと思って朱を入れたのでしょう。でもちょっと待ってください。百歩譲って、ただ「快水浴場」とあったのなら、変換ミスだと判断しても仕方ないかもしれません。しかし二重カギでくくられ、「百選」の文字もあります。これは何かの名称で、洒落て「海」を「快」にしたのかもしれないではありませんか。朱ではなく、エンピツで疑問を出すべきところです。
 名付けの理由まではわかりませんでしたが、結果は「快水浴場百選」のままで正解でした。環境省が2006年に選定したもので、40の都道府県より推薦された191の水浴場から100箇所を選んだものです。
 思い込みで朱を入れるのは厳禁です。確固たる裏付けがあるとき、あるいは先方から「○○の場合に朱を入れてください」などと指示されているときに限って入れるべきでしょう。変換ミスが氾濫しているからとはいえ、安易な判断を下すと陥穽にはまります。何事も勇み足をしないように心したいですね。(M)

快水浴場百選
https://www2.env.go.jp/water-pub/mizu-site/suiyoku2006/

この一冊!『増補版 誤植読本』

<h3>2013年8月号</h3>
『増補版 誤植読本』

松井栄一 著
筑摩書房(2013/6)
文庫/314ページ
ISBN 978-4480430670
価格 924円(税込)

本書は2000年7月に東京書籍より刊行されたアンソロジーに6作品を追加した増補版。作家や学者による、誤植や校正についての思い出話や鋭い考察がぎゅっと詰まった本です。
 誤植の例として、「天成のエッセイスト」が「天才のエッセイスト」に、餅という意味の「お歌賃(おかちん)」が「お駄賃」になってしまった例などが載っています。餅がお駄賃になっては、文全体がおかしくなってしまいますね。そのほか、蕪村の俳句「炭竈に手負の猪の倒れけり」が「炭竈に手負の猫の倒れけり」となった例も。これは印刷所で活字をケースに返すときに入れ間違ったために起きたものらしく、「活字ケースの中では猪も猫も同じ柵の中で飼われていたのである」と書かれています。猪と猫が仲良く並んで昼寝をしている様子を想像してしまいました。
 とりわけ面白いのが、「近代作家の誤植・校正」の章です。森鷗外の「鸚鵡石」や、内田百閒や西島九州男らが書いた『漱石全集』の校正の話など、著者の言葉に対するこだわりに改めて感じ入りました。「鸚鵡石」は、著者の使いたい表記を印刷所が認めず、「こちらが正しい」と別な表記にしてくるために起こった騒動を描いたもので、著者と編集者との軽妙な、しかし著者にとっては深刻かつ重大なやりとりが楽しい話で特におすすめです。
 大変残念なことに、『誤植読本』である本書にも誤植があります。先の『漱石全集』でも合計19回も目を通したのにまだ誤植があったそうで、どんなに校数を重ねても、またどんなに優れた校正者が校正をしても完璧にはいかないようです。だからこそ『誤植読本』であるだけに「誤植ゼロ」を期待していたのですが……。
 本書の中で、森銑三が「書物には誤植がある上に、原稿の誤書があり、文字の誤用がある。その上に内容の誤謬まで数えたら、大抵の書物は誤に充ち満ちていることになる」と書いています。誤植をなくすことの難しさ、校正という仕事の果てのなさをひしひしと感じました。(S)

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