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ぷれす通信

2011年12月号

デッドゾーン 「字体統一」のもぐらたたき~『字通』の校正より

「同じ文字は同じ字体で表記する」――この「当たり前」の困難を、田中栞氏の「ユリイカ」の記事から見てみます。

田中氏が白川静氏の『字通』を校正した際、印刷文字の数ある異体字の中から採用字体を選択し、それが確実に印刷されるよう知恵を絞ることに、制作チームの皆で相当苦しまれたようです。

著者である白川氏は、万年筆で原稿を書いたそうですが、印刷時の字体で書いたわけではありません。手書き原稿に取り組んだことのある方ならおわかりでしょう。独特の略字や崩し字、ありますよね。白川氏も同様で、そのような字が「(普通の)印刷文字体に置き換え(られ)ることを前提」として書いているのです。

以下、本文を引用します。

白川氏の原稿では、(略)いちいち「この略字は通行の印刷字体で印字のこと」などと指示が書かれているわけではない。原稿を託された編集部が氏の意向を読み取り、論拠に関連する漢字はそれに忠実な字体を、そうでないものは通行印刷字体の中から相応しい字体を選択して使用方針を決め、印刷者と校正者が協力のうえゲラを作成して白川氏に提示し、試行錯誤を重ねながら、使用する漢字セットを少しずつ練り上げていったのである。

通行字体ではだめで「作字」→異体字が増える、間違った字体が作られてそのまま残ってしまう(!)等々、さまざまなトラブルがあったようです。これらの細かい統一作業に加えて、通常の校正作業ももちろん行うわけですから、平成6年3月の初校から平成8年10月の初版発行までの長期間、気を抜く暇もなかったのではないでしょうか。

大部の小説で字体がバラバラなものを校正したときには、ゲラがエンピツで黒くなってほとほと困りましたが、この記事を読み、同業者として身の引き締まる思いがしました。

持ち帰りで1人で校正をする場合、きちんと指針を示されないまま作業することもありますよね。デザイン差も「違い」とみなす版元もあります。辞書を複数引き比べ、仕事も知識も「一挙両得」はいかが?(S)

青土社「ユリイカ」2010年1月号/特集=白川静 100歳から始める漢字
田中栞日記

この一冊!『呪の思想 神と人との間』

『呪の思想 神と人との間』

呪の思想 神と人との間

白川静、梅原猛著
平凡社ライブラリー(2011/4)
328ページ/HL判
ISBN 978-4-582-76733-9
1,050円(税込)

図らずも「白川静」が続きます。

『呪の思想』――文字(漢字)に込められた古代人の思いとはなにか。それを梅原猛が弟子のような立場で、白川から聞き出していく対談本です。

梅原は「梅原日本学」といわれる分野を開拓した哲学者ですが、国際日本文化研究センターやものつくり大学の創設に深くかかわったほか、「スーパー歌舞伎」の創作者としても知られています。神道や仏教、日本思想、古代史をテーマにした“怨霊史観”など、独創的であるがゆえに批判も多く、歴史の専門家の間では異端視されがちです。白川もまた、漢字研究の第一人者として認められているものの、学界では異端の学者でありました。

「奇人・梅原猛は、大奇人・白川静に会いたがっていた」ことで実現した対談。新しきものは、その多くが「異端」や「奇人変人」によって発見され、次代への道が拓かれますが、文字の持つ意味、漢字の起原、それが現代の日本語にどうつながるか(あるいはつながらないか)、文字をめぐっての二人の会話は刺激的で、新しい気づきに満ちています。

例えば「道」。怨霊史観の奇人・梅原も「あれは本物の(異族の)生首を持って歩いたんですか」と、その解釈にびっくりして尋ねる。すると、大奇人はこう答えます。

「本当にね、首を持って進むという字形です。……本来は『道』そのものが、そのような呪的対象であった。ただ自己の支配する領域では、そういうことはやらんのです。支配の圏外に出る時には、『そこには異族神がおる、我々の祀る霊と違う霊がおる』と考えた、だから祓いながら進まなければならん訳です」(p33)。

――こんなやりとりが随所に現れます。読んだからといって直ちに校正の役に立つわけではありません。しかし、日ごろ相手にしている漢字について、理解と愛着は深まるはずです。

この対談、今回、平凡社ライブラリー版で紹介しましたが、できるなら、掲載写真が豊富な単行本(税込1,890円)を手に入れて、じっくり読まれることをお勧めします。(Z)

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