ぷれす通信

communication

2012年11月号

デッドゾーン 慣用句をうがって見る?

文化庁の実施した(24年2~3月)「国語に関する世論調査」の結果が発表されました。新聞等で目にされた方も多いと思いますが、本来の意味とは異なる意味で使われている慣用句について、校正者としてどう対処すべきか悩んだ方も多いのではないでしょうか。

 

「にやける(若気る)」は本来なよなよとしていることですが、薄笑いを浮かべているとした人は8割近くに上ります。「にや」からにやにやを連想するからでしょうか。「失笑する」はこらえきれず噴き出して笑うことですが、笑いも出ないくらいあきれるとした人は6割いました。「うが(穿)った見方」は物事の本質を捉えた見方(文化庁の表現)ですが、疑って掛かるような見方とした人が5割いました。個人的には物事の本質を捉えるというのとは少々ニュアンスが違う気がします。詮索する、普通には知られていないことを暴く、といったややマイナスなイメージがあります。

 

いずれにせよ、本来とは異なる意味で使われていた場合、校正者として杓子定規に赤字や疑問出しをすべきでしょうか。7~8割の人が使っている(世間に定着しつつある)意味であれば、本来の意味に直してもかえって違和感を与えてしまいます。結局、媒体の性格によって判断するしかなさそうです。例えば、辞書や論文、学会誌などでは本来の意味に忠実に、雑誌などでは今どきの用法で、とか。

 

また読み方についても、「声を荒らげる」は本来「あららげる」ですが、「あらげる」と言う人が非常に多くなりました。ルビを振る場合、気をつけたいですね。 言葉は時代とともに移り変わるものですが、いわゆる誤用をどの時点で認めるかは、非常に悩ましい問題です。国語辞典でも、新しい使い方が採用されるまで、辞書によっては10年以上の開きがあったりします。

 

慣用句が出てきたら使い方に要注意。これは他人事(ひとごと)―たにんごとと読む人が半数を超えたとか―ではありませんよ。(K)

この一冊!『知っておきたい日本語コロケーション辞典』

この一冊!『知っておきたい日本語コロケーション辞典』

『知っておきたい日本語コロケーション辞典』

知っておきたい日本語コロケーション辞典

金田一 秀穂 監修

学習研究社(2006/6)

400ページ/A5判

ISBN 978-4-05-302130-4

2,310円(税込)


「コロケーション」という言葉を聞いたことはありますか? 意味は〈二つ以上の単語の慣用的なつながり。連語関係。(大辞泉)〉。今回ご紹介するのは、日本語のコロケーションを集めた辞典です。

 

たとえば、「頭が切れる」という表現がありますが、これは頭に傷を負ったわけではなく、またひどく怒った、キレた状態になったわけでもなく、頭の回転が速く頭がよいことをいいますよね。このようなコロケーション(本書では「二つ以上のことばが結びついてできたことば」と定義)を約4千ほど精選したのがこの本です。

 

数々の馴染み深いコロケーションに交じって、「肯綮に中る(こうけいにあたる。=物事の重要なところをつく。大切な点を押さえている)」や「甚助を起こす(じんすけをおこす。=嫉妬する)」「顎が干上がる(あごがひあがる。=生活ができなくなる)」「筆硯に親しむ(ひっけんにしたしむ。=文字や文章を書く。文筆に親しむ)」などの、普段あまり見かけないコロケーションも収載されています。

 

本書のすばらしい点は、逆引き索引があること。たとえば「浴びる」を引くと、「返り血を」「脚光を」「スポットライトを」……と続きます。「浴びる」を使ったコロケーションを一目で見渡すことができるのです。

 

そのほか、株式用語、パソコン用語、スポーツ用語のコロケーションを集めた9つのコラムもお役立ちです。株式用語で「頭が重い」というと、ある銘柄の株が値上がりしそうで上がらないことをいいます。「ひびが入る」は、上がり続けていた相場が急に下落することなのだそうです――ご存じでしたか?

 

引く辞典でもあり、読む辞典でもある本書。隅から隅まで楽しめること請け合いです。(S)