ぷれす通信

communication

2012年12月号

デッドゾーン 重ね言葉

「馬から落ちて落馬する」は冗談の域に達していますが、日々ゲラの中に重ね言葉を見つけることがあります。

 

いくつか例を挙げましょう。

 

「かねてから」「今現在」「一番最初」「まず初めに」「各セクションごとに」「~だけに限る」「必ず必要です」「受注を受ける」「数値の値を求める」等々、見かけたことがあるでしょう。

 

それぞれ適当な表現に直してみましょう。

 

「かねてから→かねて」「今現在→今 or 現在」「一番最初→一番初め or 最初」「まず初めに→初めに or まず」「各セクションごとに→セクションごとに or 各セクションに」「~だけに限る→~だけ or ~に限る」「必ず必要です→必要です」「受注を受ける→受注する or 注文を受ける」「数値の値を求める→数値を求める」。

 

さて、ここからが本題です。これらの言葉をゲラの中に発見したとき、どのように対応しますか? 先に挙げた適当な表現にするよう、エンピツを入れますか?

 

版元や担当者にもよりますが、「かねてから」「今現在」「一番最初」「まず初めに」のようなものは、「著者が特に強調したいという思いで書いているのだから直さなくてよい」場合もあります。

 

「かねて」については、大辞林に「―からの懸案事項」、大辞泉に「―より予期していたことだ」との用例があり、「かねてから」「かねてより」を許容しています。「あ、見つけた!」とばかりにエンピツを入れてしまわず、一呼吸おいて辞書にあたってみることが大切です。(M)

この一冊!『今はじめる人のための俳句歳時記 新版』

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『今はじめる人のための俳句歳時記 新版』

今はじめる人のための俳句歳時記 新版

角川学芸出版 編

角川ソフィア文庫(2011/9)

622ページ/文庫判

ISBN 978-4-04-406507-2-C0192

820円(税込)


「初雪(はつゆき)」「雪催(ゆきもよい)」「吹雪(ふぶき)」「雪女郎(ゆきじょろう)」「風花(かざはな)」――これらは一体何でしょう? 正解は「季語」です。

 

本書ではそれぞれ、次のように説明されています。

 

「初雪」は「その年の冬になってから初めて降る雪で、降っている雪でも積もった雪でもよい」、「雪催」は「雪の降り出しそうな空の様子」、「吹雪」は「降る雪と積もった雪が風で舞い上がって見通しの悪い状態」、「雪女郎」は「雪に因む怪異で、美しい女もあれば老婆のこともあり座頭のこともある。旅人や樵人(きこり)に害をなすという多くの伝説が残る。古くから俳諧の季語となっているが、架空の季語としては最も好まれるものの一つ」――雪女、ですね。最後の「風花」は「空が晴れているのにちらつく雪をいう。元は方言で、風にのって降り出す雪や霙霰をいうが、俳句では遠方から吹き飛ばされてきた雪としている。美しい言葉なので明治以後盛んに風花の句が作られるようになった」。

 

いかがですか、それぞれの言葉からさまざまなイメージが湧いてきませんか? 五・七・五と指折り数えて一句作ってみませんか?

 

本書は、俳句でよく使われる季語だけを載せた、初心者向けの歳時記です。歳時記とは「俳句の季語を集めて分類・整理し、解説や例句を載せた書物。俳諧歳時記。季寄せ。(大辞林より)」で、一年を春・夏・秋・冬・新年に分けて分類しています。ちなみに、先に挙げた季語はすべて冬の季語です。

 

ふだんの校正ではお目にかからない季節の言葉にあふれる本書。「木の葉髪」って何だと思いますか? 「竜の玉」とは何でしょう? 「綿虫」ってどんな虫?――ページを繰るたびに、季語を一つ知るたびに、季節の色合いがいつもと違って見えてきます。

 

語彙や感性を豊かにする強い味方です、ぜひご一読を。(S)