ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.132

『星の子』

今村夏子 朝日文庫

我が娘ちひろの湿疹を治した「金星のめぐみ」という水との出合いから、その水を販売する新興宗教に入った両親。次第にその宗教にのめり込むことで親戚との関係に溝ができ、ちひろの姉は家出をして戻らなくなる……。家庭、教団、学校に身を置くちひろの中学3年までの生活を描いています。家庭や教団を自分の居場所と認めながらも、学校という場から見ると違和感は拭えない。そうした葛藤が物語のテーマであるのですが、ドロドロした描写はなく、学園青春もののようにライトなタッチで進んでいきます。先生に恋い焦がれて似顔絵をせっせと描く姿は微笑ましく、学校や教団での仲間との会話も年頃のそれです。けれども、ある出来事がきっかけでそれまでの世界が瓦解する様子や、教団に属するがゆえ予想だにしなかった暴力が振るわれるくだりに一気に緊張が走ります。高校受験を控えるところでこの小説は幕を閉じますが、それは義務教育の終わりという意味を示すのではないでしょうか。想像を働かせると美しいラストシーンが様々な意味にとれる、深みのある作品です。(かつ)

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『50代から老後の2000万円を貯める方法』

水上克朗 アチーブメント出版

大手金融機関でお気楽なサラリーマン生活を送っていた水上克朗氏が、50代半ばを過ぎての社外出向による収入減少を機に、「定年までに2000万円貯める!」と一念発起し、あの手この手で2000万円を貯めた、という実話を基にした老後の資産形成指南書です。本書は、資料を明示した分かりやすい資産形成術と、克朗氏が2000万円を貯める過程を描いたマンガの二部構成で、是非とも老後の2000万円は貯めたいが本を読むのは苦手という方でも無理なく読み進められるようになっています。資産形成術は、「支出の見直し」「キャリアチェンジ」「介護・医療費への備え」「退職金・年金・雇用保険」の項目ごとに説明され、すべてを一気に行うことは難しいけれど、まず自分に必要だと感じる項目から着手すれば、確実に老後の不安を減らしていけるだろうと思わせてくれる内容でした。加えて、ユーモラスで哀愁漂うマンガを読むことで、克朗氏が家族の病気や介護という支出イベントにどのように向き合ったか、転職・起業・再就職(継続雇用)といったキャリアチェンジをどのように乗り越えたかということを知れるので、資産形成のアドバイスも納得して受け入れられるなと感じます。いつか誰にでも訪れる老後という時期を、嫌だ不安だと忌避するのではなく、私はきちんと考え備えていると自信を持って生きていくほうがずっと健康にいいよね、とこちらも一念発起させられる本でした。(いく)

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