ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.125

『アルゲリッチとポリーニ ショパン・コンクールが生んだ2人の「怪物」』

本間ひろむ 光文社新書

ショパンを聴いていた時期があり、アルゲリッチもポリーニも持っていたので「これはこれは」と手に取りました。その頃、英雄ポロネーズを聴き比べて、ポリーニは定規で線を引くように弾くなあ、アルゲリッチの方が人間味が感じられて好きだな、なんて思っていました。2人の人となりは知らなかったので、読んで納得。ポリーニは紳士的な生活を送り、アルゲリッチはそれぞれ父親の違う3人の子どもを産んでいます。しかし、なぜ今アルゲリッチとポリーニなのか? それは今年ショパン・コンクールが開かれるから。2人とも1960年代に優勝した天才。このコンクールを制することで、ピアニストは世にその名を轟かせるのです。読後、2人のCDを聴き直したのは言うまでもありません。ポリーニのスコアに忠実に弾きこなすスタイルの良さに新たな感動を覚えましたが、ブラックコーヒーをガブ飲みしてさらっと弾いた(本にそうある)アルゲリッチが今もやはり好きです。(くろ)

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『大人の見識』

阿川弘之 新潮新書

2007年に語り下ろした本です。予備学生として旧日本海軍にいた頃のエピソードをもとに、大人の見識、叡智について教えてくれます。特に興味深く読んだのはユーモアについて。英国海軍を見本にした日本海軍は、ユーモアの感覚も取り入れていました。例えば、優秀な好青年が志願するもののどうしても体重が足りない。そこで試験官は彼を体重計に飛び乗らせて、衝撃による針の振り切れを証拠にクリアさせてしまいます。 不条理や悲哀を知りながらも一度距離をおいて、あえて笑いに変換させること。これこそがユーモアであり、危機的な状況において悲観を乗り越える術であるのです。阿川氏自身の経験や聞き及んだことが次々と紹介され、うーんと唸ることたびたび。本書の最後を飾る「温故知新」についての解説は、スピードと効率の現代において、なるほどと考えさせられました。つまり、俄か勉強による知識ではなく、「温める」(じっくりとものにする)ことで身につける知恵こそが大切であって、だからこそ「温」の字なのだと。200ページながら、たいへん内容の濃い一冊です。(もん)

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