ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.119

『さざ波の記憶』

文 安西カオリ 絵 安西水丸 新潮社

安西カオリさんが、父・安西水丸さんの思い出を雑誌などに発表したものをベースに、ご自身の暮らしのなかで起きたことや思うことを綴ったエッセイです。青インクでスケッチした水丸さんの絵が差し挟まれ、父娘の共著となっており、スリーブ仕様の小洒落た作りが所有する喜びを与えてくれます。父から教わった陶器やコーヒーの面白さ、日本の美術教育の在り方を問い直す考え、そして「本物の海」こと千倉の荒れた海辺の記憶など、父娘の温かいつながりが文章から伝わってきます。もちろんカオリさん自身の話も興味深く、北海道新幹線に乗って何となく函館に着いてしまった違和感から津軽海峡をフェリーで4時間かけて函館入りし直したことや、東北に居を構え、松島やこけしといった現地の魅力について語るなど、落ち着いた筆致で心地よく読み進められます。スリーブの絵と文字が光で煌めくようになっており、本棚に飾っておきたくもなる一冊です。(かつ)

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『世界のさんぽ道』

WANDERLUST編 光文社

主にヨーロッパの街の中にある小さな道(路地裏)を撮り集めた写真集です。さんぽ道という名のとおり、何でもない建物と道なのですが、見ていると不思議とその街を歩いているような感じがしてきます。「Spring」「Summer」「Autumn」「Winter」と章立てしていますが、日本のカレンダーにある春夏秋冬のような「いかにも」な見せ方とは異なり、そこに漂う空気で伝える季節の見せ方です。色がすごく鮮やかでコントラストがはっきりしており、少しレタッチが過ぎるような気もしますが、いやいや各国の光はこう見せてくれるのかもしれません。人の姿があまりないため、ページを繰るたびにいつの間にか外国の舗道を歩く自分の散歩の足音が聞こえてくるような…。サイズが大きくないのでちょっと近所に、という気軽さが形に表れています。(くろ)

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