ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.116

『愛するということ』

小池真理子 幻冬舎文庫

清水マヤが一度だけかかった婦人科クリニックの医師、野呂貴明はその後、医療の道をやめ、いくつかの店を経営していた。その店のひとつで働くことになったマヤは、8歳年上の野呂とほどなくして恋愛関係になる……。マヤの視点から書かれたいわゆる不倫ものですが、野呂の妻はほとんど出てこず、野呂との関係を中心に、愛することにつきまとう感情の揺れ動きをこまやかに書きあらわした作品です。幸福に翳りが見え始め、やがて嫉妬や喪失や絶望に打ちひしがれていく様子を透徹な筆致で書き、性愛描写に込められた意味も大きくとっています。野呂との別離の後に知り合う60歳前後の映画プロデューサー・柿村陽三との関わりと、その辛辣ながらも力強い言葉がけっこう心に響きます。「感傷はほどほどにしろ。地獄の底から這い上がってでも生き抜いていこうとしている時に、いつも俺たちを邪魔してかかるのは、感傷なんだ」「悲しみは乗り越えるもんじゃない」「そこに悲しみがあった、なんてことすら忘れるほど深くね、埋めちまう」など記憶に残る台詞が小説世界を一段上に引き上げてくれます。これは、大人が読んで頷ける恋愛小説です。(くろ)

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『こんなせんそうなら、したい!』

キタ大介 サンマーク出版

衝撃的なタイトルですが、本書で描かれる内容は平和そのもの。人を傷つけ、悲しませることが戦争という認識を多くの人が共有していると思いますが、本書はそれに意義を唱え、「相手を笑わせたら勝ち」という誰もネガティブな気持ちにならない戦争のあり方を提案しています。敵を笑わせる武器を駆使して戦ったり、笑わせた人の数だけ偉くなったりといったユーモアある設定の数々。戦争のルール自体を敵味方どちらもが幸せを感じられるように根本的に変えてしまえばいい。世間が不穏な印象を持ちかねないテーマでも、ここまで面白い形に転換できるのか! と、お笑い芸人としても活躍し、世間の常識や思い込みを破って笑顔を送る著者の腕が光る作品です。子どもはもちろん、大人も心がほっこりすることは間違いありません。マネして遊ぶのもいいですし、戦争に限らず皆が笑顔になる方法を考えるきっかけにしてみるのもいいでしょう。(もん)

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