ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.115

『バナナのかわをのっけたら ランプル・バターカップのおはなし』

マシュー・グレイ・ギュブラー 光文社

アメリカのテレビドラマ「クリミナル・マインド」でドクター・スペンサー・リードを演じる著者の初の絵本は、孤独なちょっと変わったかいぶつの物語です。ランプル・バターカップは側溝の中の地下の部屋で暮らしています。なぜなら、ガタガタの歯が5本に、髪の毛は3本、肌はみどりでウロコだらけだから。こんな自分は町の人々に受け入れてもらえるはずはないと、孤独をかこっているのです。町中の人々と自分を比べては自分の個性に絶望するランプルですが、ずっとメソメソしていたり、寂しさが怒りに変わったりすることはありません。地下の部屋を居心地よく整えること、側溝の上から聞こえてくる町の人々の声を聴くこと、バナナの皮を頭にのせてゴミに変装して地上に顔だけ出すこと……、ちょっとの楽しみに喜びを見出して寂しさを慰めているランプルが切ないやら愛おしいやら。読んでいて涙が滲みそうになるのは、それがどこか覚えのある感情だからかもしれません。読後、自分の気に入らないところを“らしさ”と受け入れたり、人にやさしくしたくなったりするとても優しい絵本でした。(いく)

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『ビートルズを聴こう 公式録音全213曲完全ガイド』

里中哲彦/遠山修司 中公文庫

先月「アビイ・ロード」50周年記念盤が出たビートルズ。横断歩道を渡る4人の姿のアルバムジャケットが有名です。そのビートルズの公式録音213曲をアルバムごとに取り上げて、録音日や担当ボーカル(ビートルズは曲によってボーカルが異なる)、作曲者といったデータはもちろん、聴きどころや歌詞の意味やメンバーの様子などを、河合塾英語科専任講師とロンドン在住ブリティッシュロック研究家が語り合います。ビートルズ関連の本はありすぎるがゆえに避けてきましたが、ふと書店で手に取ってみたところ「これはいい」と即買いし、読みながら213曲聴きました。このギターソロはベースのポール・マッカートニーだったのか! とか、この歌詞にはこんな裏の意味が……など、ますますビートルズに対する愛着が湧いてきました。一方で、録音技術の発達を余すところなく使い倒して革命を起こした彼らが、もはや一緒に集まらなくてもレコーディングできてしまうがゆえ解散へ向かっていくという物語的要素も読み取れます。世界に旋風を巻き起こした彼らの活動期間はたった7年半。改めてこのバンドのすごさ、そして楽曲の深さを知ることのできる一冊です。(かつ)

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