ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.108

『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』

原田マハ 幻冬舎

原田マハさんが、洋の東西を問わず、手土産持参で20人の芸術家を訪ねる掌編小説集です。画家、陶芸家、文筆家、漫画家、映画監督と多士済々。なんと、マハさん自身が自分によこした挑戦状を受け取ったことから始まるという不思議な設定の本なのです。そこにはいくつかの決まり事があり、もし守りそびれるようなことになれば、とんでもないことになってしまうのもあります。そう、実のところ20人の芸術家はすでに星となった故人。しくじると、その星が流れて消えてしまうというわけ。困りますね……。そんなわけで、マハさんは緊張しながら巨星たちのもとへと向かうのですが、その狼狽ぶりや慌て様がコミカルで可笑しいのです。セザンヌ、マティス、川端康成、手塚治虫、小津安二郎ら巨星たちとの会話を通して、人となりや芸術感が浮かび上がるように記されています。いわば彼らを小説仕立てで「紹介する」本なわけです。たとえ知りつくしている人物であっても、ツボを押さえた記述に遭遇し、余計に面白く読めるところはさすがです。例えば、私は宮沢賢治に詳しいですが、賢治を訪れたマハさんは「下ノ 畑ニ 居リマス 賢治」という黒板の文字を目にします(この黒板、賢治好きなら誰でも知っているものです)。20名の巨星たちとコンタクトを終えたマハさんは、またもや自分から、今度は挑戦状ならぬ指令書を突き付けられます。それはいったい何でしょうか? さあ、早く本書を手に。そして間に合うのなら「そうだ、京都行こう」!(かつ)

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『ゼロは最強』

TAKAHIRO 光文社

タイトルが示すように、プロダンサーのTAKAHIROが、「ゼロ」の無限の可能性を訴える作品です。本書の前半はTAKAHIRO自身のこれまでの人生でのエピソードを、その時に得た教訓を交えて紹介。後半はその教訓をより汎用性が高いものに落とし込んだ格言と、その説明といった構成をとっています。初めて臨んだダンス大会のオーディションでの洗礼を乗り越えて殿堂入りチャンピオン、マドンナのワールドツアーへの参加、欅坂46などアーティストの振り付けなど、サクセスストーリーの裏にある努力の話はどれも興味深いのですが、彼の話はどれも単なる「興味深い」で終わらせず、私のような人間でも。いえ、私のような人間だからこそできることがこの世にはたくさんあるのだと、ページをめくるたび強い自信がつけさせてくれるように感じました。「知らなかったからできた。ゼロだったからできた。そして恥をかいたことでゼロが1となる奇跡のような瞬間を経験できた」と彼はいいます。ゼロだからこそ、そこから何をしようが経験値が増える意味ではプラスでしかない。恥も、後半の「緊張はVery goodサイン」で説明される緊張も、それらは自分が新しいことに挑戦し成長中である証拠なのだと気づかされます。読んでいて前向きな気持ちになれました。(まち)

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