ぷれす通信

communication

読んだら書きたくなりました vol.98

『私がオバさんになったよ』

ジェーン・スー/光浦靖子/山内マリコ/中野信子/田中俊之/海野つなみ/宇多丸/酒井順子/能町みね子 幻冬舎

著者であるジェーン・スーさんと30~50代(雑誌連載当時)の方々8人による対談集です。なかなかインパクトのあるタイトルではないでしょうか。「『私がオバさんになったよ』と言われると、少しだけ心がざわつく人に届いてほしい」とのことですが、タイトルに尻込みせず、女性だけでなく男性にも読んでほしい本だと思いました。とくに男性学を研究されている社会学者の田中俊之さんとの対談には多くの気づきがありましたが、男性の「生きづらさ」という問いは新鮮でした。社会から受ける「圧」というものは女性にも男性にもあり、それは表裏一体。言われれば確かにそうだろうなと思いますが、とくに性別の問題では自分事ではない場合、実感を持つのは難しいし、そもそもその気づきを得ることもできないかもしれないですよね。「歳をとってなお、学ぶ姿勢を保たないとってことだ。自分をこまめにチェックしないと」というスーさんの言葉を忘れないようにしたいと思いました。対談者によってメインになる話題が異なるので、さまざまな視点から物事を見ることができますし、視野を広げるとともに自分を省みる機会も得られました。軽やかに読める対談本ですが意外とずっしりくる1冊です。(いく)

『All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて』

ソール・ライター 青幻社

2017年にBunkamura ザ・ミュージアムで開催された写真展「ソール・ライターのすべて」の記念写真集です。表紙を飾る《足跡》をはじめ色鮮やかな傘をモチーフとした作品、浮世絵の影響を如実に感じる《天蓋》など。何気ない日常にこんな美しい風景が存在するのかと何度も目を奪われます。もともとは画家を志していたものの、展覧会を開いても絵画がなかなか売れない状況だったことから写真家として生計を立てていくことにしたというライター。本書に掲載されている写真には絵画に通じる色彩感覚、構図や繊細な視点が窺えます。「写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものとして扱われたりするが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ」。

作品やその合間に記される言葉をもって、切り取る行為は目的ではなく、切り取られなかった部分、そして全体を享受するための手段なのだと気づかせてくれる良書でした。(かつ)