ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.87

『精神科医が教える 良質読書』

名越康文 かんき出版

集中力がなく読書が苦手と明言している著者による読書術の本です。読書が苦手で読むのに時間がかかるからこそ、量ではなく質を追求するというのは合理的です。読書が苦痛ではない自分はそこまでこだわって本を選んだことがあっただろうか、と振り返りました。本書ではさまざまな読書法が紹介されているので、本を読むことが苦手な方には具体的な方法を示してくれますし、本を読むことが好きな人にも新たな気づきがあるのではないでしょうか。また、読書が好きでも難解すぎる本はちょっと、と敬遠してはいませんか?

……私はそうです。しかし著者は、現在の自分の読解力や理解力といったものの「限界を超える読書」にチャレンジすべき、と説いています。ほんの数ページ、あるいは数行でもいいから読み進めることで得られる「限界を超えた」という感覚は、生きていく力になるというのです。そんな本に挑戦するときは本書の読書術が役に立ってくることでしょう。(てつ)

『もののはずみ』

堀江敏幸 小学館文庫

フランスで出会った「もの」との心の通い合いを描いたエッセイ。時の流れのなかで消えてしまったものや、形を変えてしまったものなど、小道具屋さんや蚤の市で手に入れたり目にしたりした数々について、落ち着いた筆致で描いています。例えばベークライトの小さな鉛筆削り。例えばビスケットメーカーのロゴの入ったミニカー。活版活字入れ、パタパタと数字の板が動くフリップクロック、何の変哲もない木製の箱など。人が創りだし、やがて忘れ去られ、再び見つけ出された「もの」たち……。著者の思い出や解説、元の持ち主の想像などが綴られ、人と「もの」とのささやかなれども、あたたかなつながりに安らぐことができます。それぞれモノクロのカットが配され、読んでいて気持ちのいい一冊です。(くろ)