ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.58

『失敗図鑑』

大野正人 文響社

世の中にあふれる偉人を紹介する本は、その人が成し遂げた成功を語るものがほとんどです。もちろん、エピソードとして失敗をちりばめることはあります。しかし、「失敗」をメインにした偉人の図鑑はそうありません。それをやってのけたのがこの一冊です。10歳から読める総ルビの本ですが、大人も楽しめます。優しい語り口でリズムのよい文体、脱力系のイラスト。人間に限らず、なんと恐竜から宇宙まで、幅広く失敗について書かれています。どうやって失敗を乗り越えたのか、あるいはどうやって乗り越えればよいのか。失敗することでいろいろなことを学んでいく子どもたちには、このように失敗を軸に書かれた本書こそ親しみやすいのではないでしょうか。野口英世は「調子にのる」ことで失敗。マッカーサーは「相手をバカにする」ことで失敗。そしてカーネル・サンダースの失敗はありすぎて「いろいろ」。失敗したっていいんだよという「新しい心の教科書」から、様々な局面での生きる力を学んでほしいです。そして、最後に紹介されるお父さん・お母さんがする「失敗」を、ぜひとも子どもたちに読んでもらいたいと思います。もちろん、お子さんのいるお父さん・お母さんも、かつて子どもだった大人たちにも。(もん)

『ルポ 中国「潜入バイト」日記』

西谷 格 小学館新書

なにやらすごい圧と勢いのある本だった、というのが読後の正直な感想でした。上海在住の著者が、「潜入バイト」を通じてリアルな中国や中国人の実態に迫ろうとするのですが、潜入先がすでに面白いんです。上海の寿司店、反日ドラマの日本兵役、パクリ遊園地の7人の小人、婚活パーティー(これは労働ではなかったけれど)、高級ホストクラブ、爆買いツアーのガイド(日本)、留学生寮の管理人(日本)とてんこ盛り。目次を見ただけで興味を持つ方も多いと思います。著者は潜入バイトのために就活をして働き出すわけですが、その際に見えてくる中国と日本の働き方や職場への意識の違いはとても新鮮でした。それは、ほぼ電話一本で採用されることだったり、外国人を雇うことに全く躊躇がないことだったり、経歴詐称に対する反応の淡泊さや辞める時のアッサリ感だったり……。不衛生やパクリよりもこのドライさが、私に中国って異なる文化の国なんだなあと強く感じさせました。日本人にも中国人にもいろいろな人がいる、というのは真理だと思いますが、やはりそれぞれの集団が持つ雰囲気の違いというものは出てくるものなのですね。潜入自体はそれほど長い期間ではなく、パッと潜入してサッと離脱しているので、著者の感覚が常にフラットなままなのも読みやすい理由のひとつだと思います。テレビやネットのニュースの向こうの中国ではなくて、現実に生活している中国人の日常のにおいを感じられる1冊でした。(かつ)