ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.31

『猫と庄造と二人のおんな』

谷崎潤一郎 新潮文庫

雌猫リリーは、茶色い毛並みに黒の斑点の入った欧州種。そのリリーをこよなく可愛がる、関西は蘆屋の荒物屋の庄造。離縁された勝気な元妻・品子。裕福な家の出で、我儘育ちの今の妻・福子。その福子の家の財産が目当てで、品子を追い出した庄造の母・おりん。庄造がいちばん愛するのがリリーであるために、おんなどうしの嫉妬やら嫁姑問題やら、何やかや起こるのですが、庄造の頭の中はリリーのことばかり。そんなリリーってどんな猫?というと、これが愛らしく、いじらしく、健気で……もうその描写を読んでいると、ページに手を突っ込んで、連れ出して撫でなでしたくなるような猫なのです。そうは言っても、谷崎潤一郎の小説ですから、可愛い猫とドタバタ劇だけで終わりません。登場人物の感情をうまく交錯させ、それぞれの立ち位置をたくみに操って、ひねりのある結末へと筆を運びます。猫に翻弄される人間のおかしみを存分に味わってください。(くろ)

『Hygge(ヒュッゲ)』

ピア・エドバーグ 永峯 涼 訳 サンマーク出版

Hygge(ヒュッゲ)とは、北欧デンマーク生まれの「心地よい生活を送るための知恵」という概念で、いま欧米でとても流行っているそうです。日本でも、北欧風のインテリアやテキスタイル、教育、福祉政策などが注目されてきましたが、このヒュッゲはもう一歩踏み込んだ、北欧デンマーク文化の精神的な核のようなものです。緯度が高く、冬の時期が長いデンマークにおいて、居心地がいいということは、すなわち暖かいということ。ヒュッゲは、家族や恋人、友人たちと、薪のはぜる暖炉を囲んで、ウールのブランケットにくるまり、手製の焼リンゴやクッキーを食べ、わいわい楽しく過ごすといった、ぬくぬく暖かいアイテムやエピソードが目白押しで、寒がりでインドア志向の私の目には大変魅力的に映りました。ノームコア、断捨離、ミニマリストと、削ぎ落とす系の概念の次にくるのは、こういった素朴暖か系なのかもしれませんね。(いく)