ぷれす通信

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2014年11月号

デッドゾーン 悪魔が来たりて・・・・

デジタル技術の進化やインターネットの普及で文字情報を伝える形は変化しても、文字を扱う以上、誤植は必ずと言っていいほど出てきます。それはもう、悪魔の仕業としか思えないくらいに……。この悪魔は、執筆者、編集者、DTPオペレーター、校正者など、それぞれの役割を担う者に取り憑き、知らず知らずのうちに書き間違いや変換間違い、見落としといったミスを引き起こさせるのです。

そこで今回は、校正者がどんな時に悪魔につけ入られやすいかを取り上げてみます。『校正のくふう』(藤田初巳著、印刷学会出版部)という本には、誤植の見落としを起こしやすい場面として次の6つが挙げられています。①誤植の数が多い場合、②慣用語を走り読みする場合、③同字の熟語が続出する場合、④原稿の1、2行中に同じ語句が重ねてあらわれる場合、⑤濁音と半濁音のかなを走り読みする場合、⑥見出しを走り読みする場合。

①は、1つの誤植を拾うと、一瞬ほっとしてしまい、直後の誤植を見過ごしてしまいやすいということ。③や④もこれと同種の気の緩みから起こるものですが、その他の場面は、気の焦りが悪魔を呼び込んでいるということになるでしょうか。

また、たとえ心理的には万全でも、見落としは肉体的疲労によっても起こります。校正作業が長時間続く、あるいは、体調が思わしくない時は、見る力がどうしても衰え、文字の細かな違いに気づけなくなってしまいます。例えば、以下の類字は目が疲れていると見分けにくくなってきます。

 [圧/庄] [雨/両] [桜/梅] [壊/壌] [学/字] [歓/観] [記/紀] [客/容] [教/数] [郷/卿] [原/厚] [屈/届] [口/ロ] [工/エ] [己/巳] [午/牛] [左/右] [札/礼] [支/友] [使/便] [刺/剌] [之/元] [仕/任] [思/恩] [字/宇] [手/平] [上/土] [城/域] (前掲書より)

 いかがでしょうか。どのような場面で悪魔に狙われやすいか、あらかじめ知っておくことも誤植防止に役立ちますよ。(む)

この一冊!『てにをは辞典』

この一冊!『てにをは辞典』

『てにをは辞典』

小内一 編

三省堂/1824ページ

ISBN-10: 4385136467

ISBN-13: 978-4385136462

価格 3,800円(税別)


書名から助詞・助動詞の文法の本かと思われそうですが、全然違います。こんな具合です。

てもと【手元・手許】▲が 危ない。暗い。狂う。苦しい。寂しくなる。たどたどしい。詰まる。震える。留守になる。 ▲を 照らす。……等々、▲不如意。まで50用例。

言葉の意味や文法的な解説は一切なく、言葉と言葉の結び付き(結合語)をひたすら集めたものです。

近現代の大衆小説・時代小説・純文学・評論など250名以上の作家の作品、さらに雑誌・新聞に用例を求めたもので、その数、のべ60万例。

編者は1953年生まれの「校正者」で、はしがきによると本書を編むきっかけは、「文章に関わる仕事(校正)をしながら、この言葉はどうもしっくりしないな、他の言い回しや表現はないのだろうかとさがした時に、参考になる本が見当たらなかったこと」で、それならと、自力で結合語を採集し始めたそうです。

「この本は文章を書くときの手助けとなることをめざして編集したもの」で、「より適切な言葉を選びたい、表現を工夫したい、そう思った時に役に立つ」とのことですが、校正者にとっては文章を読むときの手助けになります。日々目を通すゲラに、こんなのアリ? と疑問に思う表現はしょっちゅう出てきます。

「手元が詰まる」……こういう言い方するんだっけ? 広辞苑、大辞林には出てないぞ。「懐に匕首(あいくち)を吞む」「一興を催す」……こういう言い回しあるの? 「心に錦を着る」……ナンのこっちゃ?

 聞いたこともない、あるいは聞いたことがあるようなないような表現を、いつも使う複数の辞書で当たってみても見つからない。そんな時にこの辞書で探してみると、案外、載っていることも。ボキャブラリー不足をちょっぴり補ってくれる助っ人です。(M)