ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.33

『死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい』

小林 弘幸 幻冬舎

トレーニングの本には間違いありません。スクワットのやり方もイラストつきでしっかりと説明されています。しかし、この本の最大の魅力というか面白さは、第4章から心身ともに健康に生きることを熱心に説き、そのたびに、だからこそスクワットをしようという、「生きかた」に「スクワット」がリンクする言葉の質感のズレ(のようなもの)が、リアリティをもって迫ってくるところにあります。スクワット本の締め括りの一文が「人生を100%、きっと元気に、自分らしく過ごすことができます」ですから。もちろん、著者は自律神経研究の第一人者、医学的見地で書かれているので安心を。興味がわいた方は、迷わず本書を手にしてその効果を知ってください。「え!私が悩んでいたこの症状もスクワットでよくなるの?」という驚きがあるかもしれません。運動不足だな、いまひとつ調子が出ないな、なんだか気分がふさぎがちだな、という方。スクワットを始めればいいのです。(かつ)

『in our time』

アーネスト・ヘミングウェイ 柴田元幸 訳 ヴィレッジブックス

アメリカの文豪、アーネスト・ヘミングウェイの初期の短編集『われらの時代に』(原題 『In Our Time』1925年出版)には、各タイトルとストーリーの間に短い中間章(interchapter)が配置されています。この短い文章がなかなかクールでよいのですが、この中間章は、もともとパリで刊行された本(原題『in our time』1924年出版)の転用―いくつかは短編にまで伸ばした―であると、必ずといっていいほど解説に記されています。「へえ、そうなんだ」という一言で終わらせてしまっていた、これまでの流れに風穴を開けたのがこの本。つまり1924年版の翻訳です。一章あたり数行、数十行。戦場や闘牛場や恋愛の一場面を、乾いた文体で突き放すように脈絡なく配置した全18章は、オリジナルフォーマットの持つ革新性、ドライかつスリリングな展開で、『われらの時代に』とはまた違ったカッコよさがあります。ヘミングウェイというと顔をおおう白いひげに貫禄ある体躯で『老人と海』というイメージですが、このパリに住んでいた頃は当然まだ若く、マッチョな体をホームスパン(手つむぎ・手織り)のスーツなどでキメていました。「ヘンリー・ストレイターによる 肖像画に基づく 著者の木版画像」も掲載されているので、黒い口ひげを生やした当時のヘミングウェイの雰囲気もちょっぴり感じられるスタイリッシュな一冊です。(まち)